結局誰にも食べられることなく、ゴミ箱に捨てられたケーキ。
湿気てしまった、ふにゃふにゃの食感のクッキー。
地面に落ちて、潰れてしまったカスタードプリン。

ーーいいかげんにしろと、おこられるこえ


とても悲しくて、痛いこと。好きであればあるほどに、その痛みは大きくなる。やめればいいの。やめたらいいの。でも、でもね。この唯一を手放せば、私は本当になにも出来ないの。みっともない悪あがきを、それでもやめたくはないのだもの。

上手に膨らんだシュー皮。
しっとりふわふわに焼けた、オレンジの香りのジェノワーズ。
ベストに焦げたカラメルの苦さ。

ーーきみがわらいながら、ほうばるすがた


うん、それだけで救われる。すべての痛みは、美味しかったよの一言で帳消しになる。多分それは奇跡と呼べる。きっと、幾つもの失敗も大切に感じれる。

それだけで、よかったんだ。



ケーキバイキングがやっている有名ホテル。
父の知り合いのつてで招待されたので、ちょっとおめかしして、ウキウキ気分でやって来たのが三十分前。
出発前の浮かれた気持ちはすでになく、携帯を片手にちょっと泣きそうなぐらいだった。
それというのも、一緒にいく予定だった友人が、急用で来れなくなったのだ。一人でここにはいるのはちょっとハードルが高い。しかしこれは招待券。無駄にするのはとても心苦しい。

「大変申し訳ありませんが、本日は招待されたお客様以外は……」

聞こえてきた声に顔をあげると、同い年くらいの男の子が、入店拒否されてた。一般公開は明日からで、今回は招待客のみの開催らしい。楽しみにしていたのに、参加出来ない、のは私も同じなわけで。

「あ、あの、もしよかったら」


目の前で消えていくケーキの山。幸せそうに食べている彼は、すでに三十個くらいは食べているのに、まだ序の口らしい。
三つ目ですでに紅茶に逃げつつある私と大違いな食べっぷり。私は確かに少食だけど、彼は大食らいなのだろう。

「ケーキバイキングだぜぃ?全然お前食ってねーじゃん。勿体ねぇ」

皿がからになったので、休憩しているのか。彼は不思議そうにこちらを見て、声をかけてきた。すごい食べっぷりだと惚けていたため、反応が少し遅れた。


「た、食べてるよ!ケーキ大好きだもん!でも、どうやって作ってるのかな、とか味の研究してたら、ゆっくり食べることになるでしょ?そしたら、既にわりとお腹いっぱいになってきちゃって……」
「何、お前、菓子作れんの?」
「う、うん!作るのも大好きなの!……最近は、作り過ぎて家族は食べてくれなくなってるけど……」

ちょっと嘘。プロでもない、完成度の低いケーキが口に合うわけがなく、家族の誰も作ったものは食べてくれない。
たまに友人に振る舞うだけで、基本的には自分で消費する淋しさをポロポロど愚痴る。

「なら、俺が食ってやるよ」

にっかりと笑った、その顔は妙に頼もしくみえる。

「本当に?それは嬉しいなぁ」
「おう、任せろぃ」


冗談だと思ってたら、携帯のアドレスを交換して、また会うことになったり。ケーキ屋に一緒に行ってみたりと、それから彼、ブン太との交流が始まった。

声をかけた、あの日の自分に言ってあげたい。
よくやったねって。おかげで私は、初の男友達という存在を手にいれることになった。
誰かに食べて、感想を聞くということは、腕が上がる大きな理由になるらしく、最初に比べてもかなり成長出来た。
感謝してもしきれない、大切な友達。

今日は何を作ろう。喜んで、くれるといいなぁ。

(簡単に言ってしまえば私はあなたをしています)
――we love sweets!


2013/08/16 三明